東京信用保証協会の制度融資一覧(令和7年4月1日現在)を見ると、固定金利の上限が驚くほど低い。
| 金利区分 | 3年以内 | 5年以内 | 7年以内 | 10年以内 | 10年超 |
|---|---|---|---|---|---|
| 区分(1) | 2.5% | 2.7% | 2.9% | 3.1% | 3.3% |
| 区分(2) | 2.1% | 2.3% | 2.4% | 2.6% | 2.8% |
| 区分(3)(4) | 2.1% / 1.7%(短期のみ) | ||||
| 変動金利 | 各行の短期プライムレート(現在 2.125%) | ||||
短プラ(短期プライムレート。銀行が最も信用力の高い企業に貸す時の最優遇金利)が2.125%の時代に、5年固定で2.3%。日銀が利上げを続けている最中にこの水準で固定するのは、銀行にとって自殺行為に見える。
「みんな短プラ連動(変動金利)にしないと採算取れなくないか?」という疑問は、この数字を見れば当然出てくる。
制度融資の低金利を実現している仕組みは大きく3つ。銀行が安売りしているのではなく、自治体の財政支出で金利を押し下げている。
預託(よたく)とは、自治体が金融機関に低利(ほぼ無利息に近い)で大量の資金を預けること。
銀行は通常、預金者から集めたお金に利息を付けて調達する。この調達コストが0.1%~0.5%くらいかかる。でも預託金ならほぼゼロコストで資金を確保できる。
つまり、資金調達コストが下がった分だけ、低い貸出金利でも利ざや(スプレッド。貸出金利から調達コストを引いた差額のこと)を確保できるという仕組み。
借り手が銀行に払った利子の一部を、後から自治体が借り手に返す方式。
例えば、銀行には2.5%の金利を払うけど、区が1.0%分を補助してくれるなら、借り手の実質負担は1.5%になる。銀行は2.5%を丸ごと受け取っている。
新宿区や千代田区など23区はこの方式を多く採用している。
保証料(借り手が信用保証協会に払う手数料)も、自治体が大幅に補助している。
| 対象 | 補助率 | 具体例 |
|---|---|---|
| 全事業者 | 3分の2 または 2分の1 | 保証料0.8%→自己負担0.27%~0.4% |
| 小規模企業者 | 2分の1 または 全額 | 保証料0.8%→自己負担0%~0.4% |
| 一部制度 | 国が0.1%を追加補助 | 経営強化促進融資など |
保証料率自体も、一般保証(1.90%~0.45%)に比べて東京都制度融資(1.39%~0.26%)の方が低く設定されている。
ここが核心。「低金利なのに銀行は儲かるのか?」を、スプレッド(利ざや)で比較してみる。
意外にも、制度融資の方がネットスプレッドが高い。そのカラクリは:
BIS規制(バーゼル規制。銀行が持つべき最低限の自己資本の割合を定めた国際ルール)では、融資の種類ごとに「リスクウェイト」(リスクの重み付け。高いほど多くの自己資本を積む必要がある)が決まっている。
| 融資の種類 | リスクウェイト | 意味 |
|---|---|---|
| 通常の法人融資 | 100% | 融資額の100%が「リスク資産」にカウント |
| 保証協会保証付き融資 | 10% | 融資額の10%しかリスク資産に入らない |
| セーフティネット保証 | 0% | リスク資産ゼロ扱い |
つまり、同じ1億円を貸すなら、制度融資は必要な自己資本が10分の1で済む。ROE(自己資本利益率。株主から預かったお金でどれだけ利益を出しているかの指標)ベースで考えると、制度融資は極めて資本効率が高い。
仮にネットスプレッドが同じでも、必要自己資本が1/10なら、ROEは10倍になる計算。
利上げ局面で固定金利を出すリスクは確かにある。でも制度融資には特有の事情がある。
6つの理由がある。金利だけ見ていると見えない「裏のメリット」。
1. リスクフリーに近い融資
信用コストがほぼゼロ。不良債権になっても保証協会が80~100%カバーする。不良債権比率を上げずに融資残高を積める。
2. 自己資本効率が異常に高い
リスクウェイト10%。同じ自己資本で10倍の融資ができる。ROEを上げたい銀行にとって最も効率的な資産。
3. ボリューム確保
中小企業向け融資の大部分を占める。信用保証利用残高は全国で約40兆円規模。「薄利多売」でも十分な絶対額の利益が出る。
4. 行政との関係維持(これが最重要かもしれない)
指定金融機関の地位、公金取扱い業務、預託金の受入。自治体との関係は銀行経営の根幹。制度融資を断ることは自治体との関係を切ることに等しい。
5. クロスセル(入口商品としての価値)
制度融資で取引を開始 → その後プロパー融資、預金口座、為替取引、保険販売、法人カードなど付随取引に発展。制度融資は「客寄せパンダ」としての戦略的価値がある。
6. 審査の手間が少ない
保証協会が実質的な信用審査を行う。銀行は保証協会のOKがあれば機械的に実行できる。人件費の高い行員を審査に張り付ける必要がない。
商工中金のジレンマ
商工中金は政府系金融機関だけど、基本的にプロパー融資(保証なしで自らリスクを取る融資)が中心。つまり:
全国地方銀行協会も同じ不満を持っていて、2017年の資料で「政府系金融機関が民間と競合している。制度上の優位性に起因するケースが約7割」と指摘している。
商工中金が営業トークで使える論点
結論: 制度融資の低金利は「政策金融」であり、市場原理の結果ではない。
自治体が預託金・利子補給・保証料補助という3つのツールで金利を押し下げている。銀行側も信用コストゼロ+BIS規制の有利さで十分な利益を確保できるため、Win-Winの構造が成立している。
ただし、金利上昇局面が続けば、固定金利の上限は段階的に引き上げられていく可能性が高い(実際に2025年10月に+0.25%改定済み)。短プラ連動を選ぶ銀行が増えるのも時間の問題かもしれない。
商工中金としての示唆: 制度融資との金利競争は「税金と戦う」ようなもの。金利で勝負するのではなく、スピード・柔軟性・保証枠温存という差別化で勝負すべき。