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制度融資の固定金利はなぜ異常に低いのか

2026年3月30日 20:30 更新

一言でいうと

低金利の正体は「自治体の税金」。銀行が身を削っているわけではない。

なぜこの疑問が生まれるのか

東京信用保証協会の制度融資一覧(令和7年4月1日現在)を見ると、固定金利の上限が驚くほど低い。

金利区分3年以内5年以内7年以内10年以内10年超
区分(1)2.5%2.7%2.9%3.1%3.3%
区分(2)2.1%2.3%2.4%2.6%2.8%
区分(3)(4)2.1% / 1.7%(短期のみ)
変動金利各行の短期プライムレート(現在 2.125%)

短プラ(短期プライムレート。銀行が最も信用力の高い企業に貸す時の最優遇金利)が2.125%の時代に、5年固定で2.3%。日銀が利上げを続けている最中にこの水準で固定するのは、銀行にとって自殺行為に見える。

「みんな短プラ連動(変動金利)にしないと採算取れなくないか?」という疑問は、この数字を見れば当然出てくる。

タネ明かし: 制度融資の金利構造

制度融資の低金利を実現している仕組みは大きく3つ。銀行が安売りしているのではなく、自治体の財政支出で金利を押し下げている。

仕組み1: 預託方式(東京都の主な方法)

預託(よたく)とは、自治体が金融機関に低利(ほぼ無利息に近い)で大量の資金を預けること。

銀行は通常、預金者から集めたお金に利息を付けて調達する。この調達コストが0.1%~0.5%くらいかかる。でも預託金ならほぼゼロコストで資金を確保できる。

つまり、資金調達コストが下がった分だけ、低い貸出金利でも利ざや(スプレッド。貸出金利から調達コストを引いた差額のこと)を確保できるという仕組み。

仕組み2: 利子補給方式(区市町村で多い)

借り手が銀行に払った利子の一部を、後から自治体が借り手に返す方式。

例えば、銀行には2.5%の金利を払うけど、区が1.0%分を補助してくれるなら、借り手の実質負担は1.5%になる。銀行は2.5%を丸ごと受け取っている。

新宿区や千代田区など23区はこの方式を多く採用している。

仕組み3: 保証料補助

保証料(借り手が信用保証協会に払う手数料)も、自治体が大幅に補助している。

対象補助率具体例
全事業者3分の2 または 2分の1保証料0.8%→自己負担0.27%~0.4%
小規模企業者2分の1 または 全額保証料0.8%→自己負担0%~0.4%
一部制度国が0.1%を追加補助経営強化促進融資など

保証料率自体も、一般保証(1.90%~0.45%)に比べて東京都制度融資(1.39%~0.26%)の方が低く設定されている。

銀行の採算はどうなっているのか

ここが核心。「低金利なのに銀行は儲かるのか?」を、スプレッド(利ざや)で比較してみる。

制度融資 vs プロパー融資のスプレッド比較

プロパー融資(保証なし)

  • 貸出金利: 3.0%
  • 資金調達: -0.2%
  • 信用コスト: -1.0%
  • 審査コスト: -0.5%
  • 純スプレッド: 1.3%

制度融資(保証付き)

  • 貸出金利: 2.3%
  • 資金調達: -0.1%
  • 信用コスト: -0.05%
  • 審査コスト: -0.3%
  • 純スプレッド: 1.85%

意外にも、制度融資の方がネットスプレッドが高い。そのカラクリは:

BIS規制上の超大きなメリット

BIS規制(バーゼル規制。銀行が持つべき最低限の自己資本の割合を定めた国際ルール)では、融資の種類ごとに「リスクウェイト」(リスクの重み付け。高いほど多くの自己資本を積む必要がある)が決まっている。

融資の種類リスクウェイト意味
通常の法人融資100%融資額の100%が「リスク資産」にカウント
保証協会保証付き融資10%融資額の10%しかリスク資産に入らない
セーフティネット保証0%リスク資産ゼロ扱い

つまり、同じ1億円を貸すなら、制度融資は必要な自己資本が10分の1で済む。ROE(自己資本利益率。株主から預かったお金でどれだけ利益を出しているかの指標)ベースで考えると、制度融資は極めて資本効率が高い。

仮にネットスプレッドが同じでも、必要自己資本が1/10なら、ROEは10倍になる計算。

固定金利 vs 短プラ連動: 本当に固定は損なのか?

利上げ局面で固定金利を出すリスクは確かにある。でも制度融資には特有の事情がある。

1 上限金利であって実際の金利ではない
制度融資の金利は「上限」であり、銀行は必ずしもこの金利で貸す義務はない。利上げが急速に進めば、上限金利を引き上げるよう自治体が改定する(実際、2025年10月に東京都は全メニューの上限を+0.25%改定した)。
2 利子補給付きは金利変更不可のルール
「利子補給付融資については、利子補給期間中の融資利率を変更することはできない」というルールがある。つまり固定金利にならざるを得ない構造がある。変動金利だと自治体の予算管理が困難になるため。
3 金利リスクは預託金で相殺される
金利が上昇すれば預金金利も上がり、銀行の調達コストが上がる。しかし預託金はほぼ固定(低利)のまま。つまり、預託金部分については金利上昇リスクがヘッジ(相殺)されている。
4 長期固定ほど上限金利が高い設計
金利区分(2)で見ると、3年=2.1% → 10年超=2.8%と期間が長いほど上限が高い。金利リスクプレミアム(長期で貸すリスクの分だけ上乗せされる金利)が織り込まれている設計。3年以内なら短プラとほぼ同水準でもリスクは限定的。

なぜ銀行はこの低金利でも制度融資をやるのか

6つの理由がある。金利だけ見ていると見えない「裏のメリット」。

1. リスクフリーに近い融資

信用コストがほぼゼロ。不良債権になっても保証協会が80~100%カバーする。不良債権比率を上げずに融資残高を積める。

2. 自己資本効率が異常に高い

リスクウェイト10%。同じ自己資本で10倍の融資ができる。ROEを上げたい銀行にとって最も効率的な資産。

3. ボリューム確保

中小企業向け融資の大部分を占める。信用保証利用残高は全国で約40兆円規模。「薄利多売」でも十分な絶対額の利益が出る。

4. 行政との関係維持(これが最重要かもしれない)

指定金融機関の地位、公金取扱い業務、預託金の受入。自治体との関係は銀行経営の根幹。制度融資を断ることは自治体との関係を切ることに等しい。

5. クロスセル(入口商品としての価値)

制度融資で取引を開始 → その後プロパー融資、預金口座、為替取引、保険販売、法人カードなど付随取引に発展。制度融資は「客寄せパンダ」としての戦略的価値がある。

6. 審査の手間が少ない

保証協会が実質的な信用審査を行う。銀行は保証協会のOKがあれば機械的に実行できる。人件費の高い行員を審査に張り付ける必要がない。

商工中金から見たらどう見えるか

商工中金のジレンマ

商工中金は政府系金融機関だけど、基本的にプロパー融資(保証なしで自らリスクを取る融資)が中心。つまり:

全国地方銀行協会も同じ不満を持っていて、2017年の資料で「政府系金融機関が民間と競合している。制度上の優位性に起因するケースが約7割」と指摘している。

商工中金が営業トークで使える論点

ポイント

結論: 制度融資の低金利は「政策金融」であり、市場原理の結果ではない。

自治体が預託金・利子補給・保証料補助という3つのツールで金利を押し下げている。銀行側も信用コストゼロ+BIS規制の有利さで十分な利益を確保できるため、Win-Winの構造が成立している。

ただし、金利上昇局面が続けば、固定金利の上限は段階的に引き上げられていく可能性が高い(実際に2025年10月に+0.25%改定済み)。短プラ連動を選ぶ銀行が増えるのも時間の問題かもしれない。

商工中金としての示唆: 制度融資との金利競争は「税金と戦う」ようなもの。金利で勝負するのではなく、スピード・柔軟性・保証枠温存という差別化で勝負すべき。

出典

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